水槽には必ずと言っていいほど何らかのろ過装置(フィルター)が設置されます。有名どころでは「ぶくぶく」と呼ばれる水作やロカボーイといった投げ込み式がありますが、それ以外にも多くの種類のフィルターが、それぞれ大小存在しています。
フィルターの種類が多い理由として、アクアリウムという趣味の多様性を示しているのではないかと思います。つまり、それぞれのアクアリストが求める環境が多様であり、飼育環境に合わせてカスタマイズする必要があるということです。そのメリットは逆に、初心者あるいは特定の生き物だけを飼育してきた人にとっては、この種類の多さは混乱を招くこともあるかと思います。何を飼うには何のフィルターを使うのか、とにかく教えてほしいという場合には非常に困ることでしょう。ですが、大げさに言ってしまえばフィルターの種類の多さは先人たちの知恵の結晶であり、あらゆる水槽内で起こるであろう問題に対して立ち向かう武器だと思ってください。その一方で、大して問題がなければ何を使っても良いので、まずは安価な物からスタートするのも手です。
ではどのフィルターを使うのが良いのか、という話の前に、まずはフィルターの役割について科学的な面も含めて説明したいと思います。
フィルターの役割
フィルターというのは多くの種類がありますが、究極的な役割としては2つに集約されます。その2つのろ過について具体的に説明します。
1. 物理ろ過:
その名の通り(?)、ごみやフンなどの目に見えるくらいの大きさのごみを物理的に濾し取るろ過です。茶こしと同じ原理で、網目状の綿や繊維をパイプやホースの様な管の中に固定し、その中を水槽の水が通るようにすることでごみを除きます。やはり水槽はごみが浮いていたり、濁っているよりは透明で澄んだ水の方が見栄えがいいですよね。肉眼で透明な水を作り出すためのろ過が物理ろ過になります。物理ろ過はその性質上、見た目にごみが取れる以上に、もう一つのフィルターの役割である生物ろ過に重要な場合もあります。
2. 生物ろ過:
ろ過の役割としてはこちらの方が重要になります。生物ろ過の「生物」というのは水槽に自然に発生して生育する細菌類(バクテリア)を指しており、フィルター内にバクテリアを住まわせることで、水槽内で発生する有害な窒素代謝物(アンモニア、一酸化窒素)をある程度無害な二酸化窒素に変換する役割を持っています。一見単純な原理に見えますが、水槽内の環境維持にとって必須のろ過です。ごみは網ですくって取り除けますが、窒素代謝物はやはりバクテリアの力を借りなければ短時間で高濃度になってしまい、魚やエビなどのタンクメイトの寿命を縮め、場合によってはすぐに死亡してしまいます。生物ろ過はイメージしているろ過とは異なりますが、水槽を維持していく上では欠かせない性質ですので、透明な水を作りさえすればろ過はOK、とはならないことを特に頭に入れておいてください。
フィルターの種類について
次に世の中に出回っている一般的なフィルターについて説明します。上の2つのろ過を念頭に読んでもらえると分かりやすいと思います。
1. 投げ込み式フィルター:
金魚の飼育キットなどに含まれる一番安価なフィルターです。ぶくぶくなどと呼ばれることが多いですね。ぶくぶくという名前は、投げ込み式フィルターは必ずエアポンプに接続して用いられるので、空気の泡がぶくぶく出ていることに由来するのでしょう。このフィルターはエアポンプで送られる空気が上に上昇する力を利用して、水槽の水を強制的に投げ込み式フィルター内に送り込みます。送り込まれた水は、大きなごみがフィルターに濾し取られることできれいになりますし、しばらく使ったフィルターにはバクテリアが住み着いていることが期待できるので、アンモニアなども分解されます。投げ込み式フィルターは見た目が単純でしかも安価であるため、ろ過能力は弱いと思われがちですが、実は侮れない力を持っています。ただし、水槽の大きさに対するろ過面積、体積が小さいことが多く、これだけで十分なろ過能力を発揮させるためには、複数個での運用が必要になるでしょう。それはあまりに見た目を損なうので、投げ込み式フィルターと別のろ過を組み合わせる、あるいはこまめな水替えをして対応するのですが、後者では「楽して」維持するというコンセプトから外れることから、別のろ過との併用が良いでしょう。
2. 外掛けフィルター:
投げ込み式フィルターの次にメジャーなフィルターでしょう。外掛けという名の通り水槽の壁などに引っ掛けて利用します。外掛けフィルター装置にはポンプがついているため、水槽の水を一部くみ出し、装置内の使い捨てフィルターまで水を送ります。そしてその水はフィルターを通過して大きなごみが濾し取られ、さらに窒素代謝物が分解・変換された後に元の水槽に戻されます。外掛けフィルターは、使い捨てのフィルターユニットが簡単に交換できるため運用しやすく、さらに見た目もそこまで悪くないので初心者にはうってつけです。弱点としては、水槽の壁、つまりガラス板に引っ掛けるので強度の問題から大型化が難しく、どうしても容量が小さなものになります。そのため、単位時間に処理できる水の量は、後で説明する外部フィルターと比較すると見劣りします。ですが、少数の生体を維持するような水槽でしたら、トータルバランスに優れるフィルターです。
3. 上部フィルター:
一昔前にはこのフィルターが主流だったかと思います。上部フィルターは水槽の上にフィルターユニットを設置し、水槽の水をポンプでくみ上げてフィルターに上から注ぎ込むことにより、大きな汚れを除く目的で使われます。最近では、物理フィルターだけでなくろ材を設置することで生物ろ過も期待できるタイプのものも多く出回っています。また、改造して用いる人も多く、単純ゆえに応用が利くフィルターだと言えます。特に、ドライ式と呼ばれる循環システムは、上部もしくはオーバーフローでないと運用が難しく、強力な生物ろ過を好む水槽で、オーバーフローまで行う必要のない大きさであれば、改造した上部フィルターが活躍することでしょう。改造までせずとも強力な物理ろ過、単純な仕組み、ろ材の交換しやすさ、さらには機種を選べば生物ろ過も可能であるため、長期運用向きではあるのですが、弱点も存在します。特にその見た目のゴツさは水槽全体の印象を変えてしまうほど強力です。金魚など水を汚す魚などでは真価を発揮しますが、そこまで強力な物理ろ過を必要としない魚種であればなるべく避けるほうが無難かもしれません。また、水草水槽との相性は悪く、せっかく導入した炭酸ガスが抜けてしまうため、効率よく水草が育ちにくいようです。ちなみに上部フィルターはほとんどの種類が枠あり水槽限定ですので、最近の水草水槽に代表されるインテリア性の高い枠なし水槽では、そもそも設置できない場合が多いです。
4. 外部フィルター:
長期的に水槽を維持しようと考えれば、第一候補に挙げるフィルターです。外部フィルターも他のフィルターと同様にポンプで水流を作り出して水槽の水をフィルターユニットに流し込むのですが、外部フィルターの特徴はその容量の大きさです。例えばエーハイムクラシック2213と呼ばれる機種では3Lものろ材が詰め込めるため、かなり強力な生物ろ過が期待できます。水草水槽のようなろ過自体は強力に行う必要がないものであっても、ろ過中に水槽の水が外気に触れないために炭酸ガスが抜けにくく、原理的に無駄が少ない構造をしています。ただし、外部フィルターはほかのフィルターシステムと比べて価格が高く、初心者がいきなり買うのを躊躇する値段です。おそらくどの機種でも最低5000円はくだらないと思います。水槽自身よりも高いのが当たり前の値段です。また、配線の取り回しの難しさや、ホースが抜けることによる水漏れの危険もあるため、できればある程度水槽を維持することに馴れてからチャレンジして欲しいフィルターでもあります。ですが、ろ過能力の高さは折り紙付きで、水槽の改造を伴わないろ過システムとしては最高のものだと考えています。
5. オーバーフロー(単なるフィルターではなくシステム):
オーバーフローは少し特殊なフィルターで、外部フィルターのろ材を詰めるユニットを別の水槽に置き換えたようなシステムです。水槽から直接別の水槽に水を移動させ、その別の水槽には物理・生物ろ過に優れるろ材をこれでもかと詰め込みます。そしてポンプで再び水槽に水を戻すことで、全体としてろ過された水を循環させています。最近ようやく個人でもオーバーフロー水槽を維持できるセットが販売されるようになりましたが、以前はガラス水槽の底に穴をあけてそこに塩ビ管などを通すといった手間をかけて作成していたようです。特に塩ビ管とガラスの穴をきちんとシーリングできない場合、水漏れが発生するため個人で維持するのは難しかったのではないかと思います。ただし、オーバーフロー水槽のろ過能力は群を抜いており、水槽と同じ、もしくはそれ以上の大きさの濾過槽を備えることで、他のろ過装置よりも大きな能力を発揮できます。海水水槽などの汚れやすい水槽ではデフォルトで使用されているようです。
6. 底面フィルター:
底面フィルターは、極めて単純な装置で運用されるフィルターですが、それ自身がフィルターとして機能するわけではなく、ソイルや大磯砂などいわゆる底砂に汚れを吸収させたり、底砂にバクテリアを住まわせたりすることでろ過するシステムです。底面がほぼ全てろ材として機能するため、ろ過能力は高い部類に入ります。原理の前に設置方法を説明すると、水槽の底に底面フィルターユニットである板を敷き、その板をソイルなどの底砂で隠すようにかぶせます。底面フィルターの板の一部には管が接続されており、底砂をかぶせた後はその管だけが底砂から生えているようになります。この管にエアポンプなどから空気を送り込むチューブを、エアストーンなどで一番底の方まで設置すると完成です。なぜこれがフィルターとして機能するかというと、底面から伸びた管に空気を送り込むことで、空気の泡とともに上昇する方向の水の流れが生じます。これは投げ込み式フィルターの場合と似たような仕組みです。そして発生した水の流れが水槽の水を強制的に底砂に呼び込むため、その結果底砂全体がフィルターとして機能します。ろ材の体積はろ過能力とほぼ比例するため、ろ過としては申し分ないのですが、一度設置するとレイアウトの変更ができないという大きなデメリットがあります。レイアウト再構築のためには水槽のリセットが必要になるため、設置は慎重にする必要があります。また、底砂から伸びている管も景観を損ねるなど、気になる人はいるかもしれません。また、もちろんこまめな底砂の掃除も必要となるため、フンや食べ残しの多い環境では見た目以上に水槽全体としての汚れが蓄積している可能性もあります。例外的に沈殿槽と呼ばれる空間を水槽の最下段に作ることで、エビなどの力を借りてごみをその空間に落とし込み、バクテリアなどによる緩やかな分解を待つことで、メンテナンスフリーの水槽を維持している方もおられるので、参考にしてみてください。
7. 流動フィルター:
流動フィルターは完全に生物ろ過に特化したフィルターです。仕組みとしては小さな外部フィルターのようなものですが、ろ過体積はおよそ50mL程度と小さく設置しやすい大きさです。水槽に引っ掛けて使うので、外部というよりは外掛けのようですが、密閉式なので外部に近いと思います。ろ過体積の小さな外部フィルターであれば単なる廉価版であると思われるかもしれませんが、流動フィルターの効果は意外と高いようです。試したことはないのですが、原理的には理想的な生物ろ過を備えていると考えられるため、レビューなどで高評価を得ているのではないでしょうか。なぜ理想的な生物ろ過になるのかと言いますと、まず流動フィルターの名前の由来である流動、つまり動いている部分がろ材そのものになります。ここまでは省略してきましたが、実は生物ろ過の能力の高さは、バクテリアが住みよい環境かということに依存します。例えばバクテリアの数が多くても、酸素が少ない環境では分解スピードも低下し、ろ過能力が発揮できません。上で紹介した流動フィルター以外のフィルターは、何らかの形でろ材を一か所に固定してしまっています(改造したフィルターを除く)。その結果どうしても止水域と呼ばれる水の流れが滞った場所が生まれてしまいます。止水域では酸素の供給あるいは、分解させたい窒素代謝物の循環が悪くなっているため、ろ過能への寄与は小さくなります。もちろん、ろ材の量を減らしたりするなどの工夫はありますが、完全にコントロールすることはまず不可能でしょう。つまり固定されたろ材のろ過能力は、本来発揮できる能力よりも限定されていると考えられるのです。一方で流動フィルターはつねにろ材が流動しており、ろ材が常に最大効率で水と接していることになります。そのため、ろ材の力をほぼ100パーセント余すことなくろ過に用いていると言えるでしょう。これが、他のフィルターよりも小さな体積で十分なろ過能を発揮できるとされている理由になります。また、ろ材が水と同じくらいか少し大きい程度の密度、重さであるためエアーポンプなどの流れで容易に水中を舞う様子も見ていて面白く、そのような楽しみ方もあるフィルターです。残念ながら物理フィルターとしての能力はゼロですので、汚れを取るためには必ず別のフィルターを設置する必要がある点、ろ材が汚れると見苦しくなる点、そしてフィルター自体が高価である点が弱点と言えます。ですが、やはりフィルター自体の挙動が面白いというのは他のフィルターに見られない点であり、評価は高いです。
まとめ
以上7つのフィルターについて紹介しました。と言ってもどのフィルターにすればいいのか、という疑問には全く答えていないと思われたかもしれません。最初に述べたように、どのフィルターするべきかというのは水槽の大きさや飼育する生き物の種類、数によって全く異なるので一概に決めることができません。ですが、30センチキューブハイタイプ水槽で、下層や中層を泳ぐ小魚を10匹くらい飼育する水槽で、水草は難しい種類は入れない、というかなり限られた条件でかつ、予算に余裕があればエーハイム2213を使ってください。ろ材はろ材セットのものを購入して、そのセット品を説明書通りに設置すると完璧です。水流が強すぎる場合はリリーパイプを接続して勢いを緩めてあげれば、ほとんどの魚を飼育することが可能です。その他底砂やヒーターなどは魚に合わせたものを入れれば何でも大丈夫です。
(すてきらんばい)